出張が重なり、ようやく島に戻りました。島に戻って二日後は黒島の競りの日でした。
2ヶ月に1度の黒島の競り会場には、肉牛を買いに全国からたくさんの購買者さんが訪れます。
ジェイソン宮良の牧場からは、ゆりちゃん(本名:平百合、生後11ヶ月の男の子)を競りに出す予定になっていました。

去年の4月頃に誕生の知らせを聞いて以来、島にいる間は牧場で日一日と成長する彼の姿を見てきました。人懐っこく、牧場に行くごとに私の顔を覚えてくれ、手を舐めてくれたり頭を撫でさせてくれたりと ななこちゃんとともにかわいいこのコンビは、私にとっては、初めてできた牛の友達でした。

牧場に男の子の牛が生まれれば1年以内に競りに出され、日本のどこかの地で立派な肉牛として育てられます。母牛に子供を産ませてあげて、出荷する。それが肥育牛農家の仕事です。
競りに出される心構えはしていた、つもりでした。

しかし現実にはそう簡単に割り切ることはできません。前日の夕方、 出荷前に体を綺麗にしてもらい 鼻かん(鼻につける輪っか)をつけた立派なゆりちゃんの姿を見た瞬間、目から自然に涙がボロボロと溢れ出てきました。

 

以前、ジェイソンに聞いたことがありました。

子供を出荷するときは、さみしさはないの?

彼は、こう答えました。
だからなるべく名前を呼ばないようにしている。愛情はかけるけど、情はかけすぎないようにしないといけない。

それを聞いたとき、私は、少なくても最初の一年はこのつらさを経験しないといけないな、と思いました。

毎日牧場にいけば会える子牛たちがいなくなる寂しさ。人一倍 動物好きな彼のことですから、実際には私など比べ物にならないくらいに寂しいのではないかと思います。しかしそのことで私たちは生計を立てることができるのです。
私はこの初めてのことを、体で感じたいと思っていました。

 

競りの当日、島内から集まってきた牛たちとともに、ゆりちゃんも列に並んでいました。牧場以外の場所に連れてこられて、引っ張られ、きっとナーバスになっていたはずです。ジェイソンに連れられて、そしてゆりちゃんが購買者さんに買っていただく姿をしかっり見届けることができました。

その日の夕方。黒島はいつもよりたくさんの牛の声が響いていました。
仲間の牛がいなくなって寂しいのでしょうか。寂しいのは人間だけではないのかもしれません。